2010-01-01から1年間の記事一覧

極限状態の愛憎劇〜東京島のこと〜

桐野夏生 著 「東京島」 を読んだ。映画化でも話題になった実話をもとにした作品だ。 32人が流れ着いた無人島。その中で女は主人公である40代の清子だけ。 極限のサバイバル状態の中で狂気と理性の間を彷徨いながら生きていく様を描いている。 突然何人…

ご対面〜Tの遺伝子を継ぐ者〜

先月産まれたばかりのTの長男M君が、奥さんの実家から帰ってきた。 さっそく見に来いというので行ってきた。 奥さんのEさんと会うのも結婚式以来だったが、産後の疲れも癒えて元気そうである。 食事の用意までしてもらった。 こうしてTの連れに食事を用…

もうひとつの政倫審〜三人の忘年会のこと〜

Tさん、U君と男だけの忘年会を我が家で行った。 Tさんからの突然の結婚報告の電話をauショップ内で受け、絶叫し、 「お客様大丈夫ですか」と心配されたのはこの数日前。 一体何が起こったのか。もはや忘年会ではない。 ちょいとした政治倫理審査会である…

絶妙さじ加減〜「袋小路の男」のこと〜

絲山 秋子 著 「袋小路の男」 を読んだ。 現代の純愛小説と賞賛された表題作を含んだ短編集。 素直に上手いと思った。 何が上手いって”加減”である。 恋愛小説というのは恐らく作品と読者が共鳴できるジャンルだと思うのだが、 そのためには微妙なさじ加減が…

お前かい!〜森見登美彦のこと〜

森見登美彦 著 「太陽の塔」 を読んだ。京都を舞台に、振られた彼女を研究と称してストーキングまがいに追いかけている主人公。 そして、その周りにいる個性的な友人達。 打倒クリスマスを目標にする彼らの青春の日々をつづった作品だ。 30ページくらいで…

メガネとアート〜現代美術館のこと〜

「オランダのアート&デザイン 新・言語」 を見た。 現代美術館で開催中の企画展。 時代背景を根元的に見据えたデザイン性で突出したオランダのアーティストを紹介している。 ひとことで言うと自由。無責任な自由でもないし、反体制的な自由でもない。 もっ…

時代と勝負〜「ドーン」のこと

平野啓一郎 著 「ドーン」 を読んだ。骨太な小説が読みたいと思い、選んだのが平野啓一郎。 「日蝕」でデビューし三島の再来と言われたが、難解すぎる文章で、「気取っていやがる」と忌避していた。 最近、伝えることに目覚めたらしく、評価も高まっているの…

最高傑作〜演劇「春琴」のこと〜

演劇 「春琴」 を観に行った。 深津絵里主演、サイモン・バクバーニー演出。 去年も観に行った時にすこぶる感動し、今回再演ということで迷わず観に行った。 深津絵里といえば、モントリオール映画祭で最優秀女優賞を獲得し、今最も乗っている女優と言えるだ…

危険な純度〜宮沢賢治のこと〜

宮沢賢治 著 「注文の多い料理店」 を読んだ。 生前に発表された唯一の童話集。 私は一種、賢治アレルギーというものがある。 苦手なのだ。単純に苦手なのである。 なんだろう、あの純粋さにやられてしまう。 私から見ると、あの純粋さは暴力に近いのだ。 生…

嵐の日曜日〜女三人かしましの会のこと〜

「美人なのに中身が男、まぁ私みたい感じよ、あんた好きでしょ?」 と恐妻Aが私に言ったのは一月前くらいだったろうか。 そんなこと言った覚えは皆無なのだが、私に紹介したい子がいるというのである。 その子はAのいとこKちゃんの友達だ。 Kちゃんに初…

ある意味接待〜若手の会のこと〜

仕事関係の若手の会が催された。 今回は私が幹事を名乗り出て、私のお得意さんのお店を予約した。 私は自分のお客の店を使うことは滅多に無い。 なぜなら、ものすごくサービスされるからである。 この若手の会では、同業者と取引先の人間がいる。 つまり、い…

余韻の美学〜夜消えるのこと〜

藤沢周平 著 「夜消える」 を読んだ。 市井の人々の悲哀を、藤沢節の効いたのんびりとした文章で綴った七編の短編集。 劇的なストーリー展開はないのだが、先に書いた悲哀というものをじんわり感じる。 暮れていく一日のような、どうしようもなさを自然に描…

天平文化の華〜まさに至宝〜

「東大寺大仏 天平の至宝」 を観た。 国立博物館の企画展。 大仏でお馴染みの東大寺ゆかりの品が集まっている。 史上初めて大仏殿の前にある巨大な八角燈籠が、寺外で展示されていたりする。 東大寺ゆかりの名品が集まった今回は外せない。 私が見たいと思っ…

理想と現実〜八犬伝のこと〜

山田風太郎 著 「八犬伝 下」 を読んだ。 虚の世界である八犬伝と実の世界である馬琴の生活が交互に描かれる。 上巻では八犬伝の世界に引き込まれたが、 下巻では馬琴の生活を綴った実の世界に引き込まれていく。 馬琴はなんと28年かけてこの作品を完結さ…

晩秋の気配〜物語山のこと〜

Tさん、U君と群馬県下仁田市にある物語山に登った。 何とも意味深な名前の山だが、その由来には諸説あり謎のようだ。 完全とは行かないが山々は綺麗に色付いていた。 台風被害と熊出没の警告が気になったがいざ出発。 珍しく私が先頭を行くことに。 道には…

安定している〜しゃばけシリーズのこと〜

畠中恵 著 「おまけのこ」 を読んだ。 「しゃばけ」シリーズ第4弾。 回船問屋長崎屋の一人息子である一太郎は虚弱体質。 彼の周りには妖怪が集まっている。 そんな彼らに舞い込んでくる様々な事件を、 過保護過ぎて家からなかなか出してもらえない一太郎が…

見えるということ〜闇の中のこと〜

乙一 著 「暗いところで待ち合わせ」 を読んだ。 ミチルは全盲でありながら一人で暮らしていた。 その家に警察に追われるアキヒロが身を隠すようになる。 ミチルは少しずつ他人の気配を感じるようになるが、危害を加える様子はない。 異様な同居生活が始まる…

返り討ち〜美術検定のこと〜

美術検定を受けた。 美術検定とは美術に関するすべての知識を試される民間の資格試験。 絵画、彫刻、写真、建築、仏像、日本画、紀元前から現代まですべてである。 さらに、美術館やイベント等に関わる問題もある。 相当にシビアな試験なのだ。 今回で2度目…

精密なるロマン〜デューラーのこと〜

「アルブレヒト・デューラー版画・素描展」を観た。 先日の「黙示録―デューラー/ルドン」展に引き続き、再びデューラーである。 オーストラリアのメルボルン国立ヴィクトリア美術館が保有するデューラーのコレクションが 国立西洋美術館で公開されている。 …

一期一会〜古本まつりのこと〜

天気が気になる中、神田古本まつりに行ってきた。 ほぼ毎年行っている気がする。 神保町に軒を連ねる古書店が店先に大量の古本を出すのはもちろんだが、 様々な出版社が傷モノの本などを手売りするのだが、これが面白いのだ。 本当に知らない出版社が、売る…

冒険活劇〜八犬伝のこと〜

山田風太郎 著 「八犬伝 上」 を読んだ。 言わずと知れた、滝沢馬琴が長い時間をかけて作り上げた長編伝奇文学の古典だ。 だが、実際に内容を知っている人は少ないのではないだろうか。 以前から興味があったのだが、なかなか機会がなく、 山田風太郎版の八…

粋だけじゃない〜張りのこと〜

上野に出たからには落語である。 というわけで、例によって黒門亭へ。 今回はどの話しも古典の名作だった。 中でも入船亭扇治さんの「笠碁」。 いつも碁を打っている大店の旦那二人。待った、待たないで喧嘩してしまう。 だが、二人とも猛烈に碁が打ちたくて…

黙示録のイメージ〜デューラーのこと〜

「黙示録−デューラー/ルドン」を観た。上野の芸大美術館で始まった企画展。 今週からは西洋美術館でもデューラーの版画と素描展が始まる。 ドイツ史上最高の画家といわれるデューラー。 名前は知らなくても作品は見たことある人も多いと思う。 彼は印刷技術…

ベタだけど深い〜機関車先生のこと〜

伊集院 静 著 「機関車先生」 を読んだ。昭和30年代、戦争の余韻が残る瀬戸内の島に新任教師がやってくる。 7人の小学生の担任になった彼は口をきくことができない。 島の人々との交流と瀬戸内の自然描写で綴った物語だ。 ストーリーはとてもベタである。…

山ガールはいずこ?〜三人飲みのこと〜

Tさん、U君と飲んだ。 秋の山を楽しみたいと思っているのだが、みんな忙しくてなかなか都合がつかないでいる。 そうしているうちに、秋も深まってきてしまったようだ。 相変わらずの三人。色っぽい話しも無い。 以前から、キャッキャッ言いながら山登りた…

全てがある〜吉祥寺のこと〜

芝居を観るために吉祥寺まで行ったのだが、 思えば随分久しぶりのことだった。 芝居の前後に散策してみた。 住みたい町ランキングで常に1位を獲る場所でもある吉祥寺。 それも納得できる。あの町は全てが集約されている。 飲食店、洋服、雑貨屋の量は尋常で…

妖艶なる世界〜演劇・星の王子さまのこと〜

演劇 Project Nyx公演「星の王さま」を観た。寺山修司の伝説の演劇集団、天井桟敷の公演から数十年。 新たな解釈を加えて生まれ変わった。 スペシャルゲストとして初演に出演した蘭妖子と石井くに子、 さらに寺山修司と関わりの深かった、カルメン・マキ、中…

集合〜一族飲みのこと〜

特に何があったわけでもないが、一族集合して飲んだ。 大人8人、子供2人。 チェーン系居酒屋に行ったのだが、驚いたのは子供連れ客の多さだ。 チェーン系の店はあまり行かないので知らなかったが、キッズメニューまであるのだ。 大声出しても迷惑かからな…

奥が深すぎ〜仏像のこと〜

瓜生 中 著「知っておきたい仏像の見方」を読んだ。 仏像関係の本の7割はこの瓜生さんが書いているのではないだろうか。 私も何冊か読んでいる。 その中でもこれは、基礎中の基礎といったところだろうか。 私はなかなかの仏像好きである。 これまで何体の仏…

十人十色〜地元飲みのこと〜

地元グループのKがこっちに来たから飲もうということで、Tと私と3人で飲んだ。 自転車集合で飲めるのは何より嬉しい。 Tの結婚式以来だが、3人で飲むのは久しぶりだ。 とはいえ、集まったところで対して新鮮味もなく、いつものようにダラダラである。 …