理想と現実〜八犬伝のこと〜

山田風太郎　著　「八犬伝　下」　を読んだ。

虚の世界である八犬伝と実の世界である馬琴の生活が交互に描かれる。
上巻では八犬伝の世界に引き込まれたが、
下巻では馬琴の生活を綴った実の世界に引き込まれていく。

馬琴はなんと２８年かけてこの作品を完結させている。
実際は異常なほど長い物語なのである。
神経質で完璧主義だった馬琴は恐ろしい厳しさでこの作品に取り組むのだ。
社会はもちろん家族さえも巻き込んで、彼は執筆していく。

その過程を知りながら、彼の作品を読めるというのがこの作品の凄いところだ。
単純に物語りだけを追っていても、これほどの感動は得られなかっただろう。

八犬伝入門書としては一番だろう。
しかしまた他の八犬伝を手に取ることがあるかは怪しい。
このダイジェスト版でも登場人物がやたら多くて、誰が誰だかわからなくなるのだ。
実際の八犬伝はどうなっちゃっていることやら。。。

現実の世界では矛盾と無情ばかりだが、
馬琴はせめて物語の中だけは勧善懲悪の世界を描きたかったのだ。
そこには悲しい諦念があるというわけだ。

日本が誇る古典伝奇小説、八犬伝。
その扉をあなたも開いてみてはいかがだろう？

八犬伝〈下〉 (朝日文庫)