粋だけじゃない〜張りのこと〜

上野に出たからには落語である。
というわけで、例によって黒門亭へ。


今回はどの話しも古典の名作だった。
中でも入船亭扇治さんの「笠碁」。
いつも碁を打っている大店の旦那二人。待った、待たないで喧嘩してしまう。
だが、二人とも猛烈に碁が打ちたくて、寂しい。
そんな二人の掛け合いの噺。


大人の意地の張り合いが何とも滑稽であり、微笑ましい。
江戸ッ子というと”粋”というキーワードがすぐ浮かぶ人も多いと思うが、
江戸気質にはもうひとつ”張り”というものがある。


見栄を張る、意地を張る。
現代では疎んじられる傾向のある気質ではあるが、
考えてみれば人間らしくて、可愛いものだ。


等身大、自然体な人が好感もてるのもわかる。
だが、見栄や意地を張ってはバカなことをする人も、それはそれで良い。
張りは人があってこそのもの。相手がいてこそ張り甲斐があるってものだ。


外に出ると雨が降り出していた。
私の自転車にはビニールがかけられていた。事務所の人がかけてくれたのだろうか。
見送りに出てきていた扇治さんが取ってくれて、
「またお越しください、お気をつけて」と。
真打ちの落語家さんがこうして送ってくれるのだ。
粋ですな。