本読んだ

本屋大賞な感じ〜「舟を編む」のこと〜

三浦しをん 著 「舟を編む」を読んだ。 今年の本屋大賞受賞作。 本屋大賞自体が疑わしいと思うようになり、「神様のカルテ」でこりゃダメだと思ったわけだが、 それでも売れるのが本屋大賞である。 とりあえず読んでみた。 長い年月と努力を必要とする辞書の…

人間とは〜「夜と霧」のこと〜

ヴィクトール・E・フランクル 著 「夜と霧」 を読んだ。NHKの「100分de名著」という番組をずっと録画して見ているのだが、 そこで取り上げられ、読まずにはいられなかった。 被災地で売れているというこの本は、 ナチスによるユダヤ人強制収容所において、絶…

生活の中に〜向田ドラマのこと〜

向田邦子 著 「せい子・宙太郎 下」 を読んだ。 向田作品の登場人物は普通の人たちだ。 普通の未完成な人たち。 それなのに、昔会ったことがあるような懐かしい存在感があるから不思議だ。 奇抜で個性的な人たちが活躍する昨今のドラマがまるで陳腐に見えて…

不思議な安心感〜向田作品のこと〜

向田邦子 著 「せい子・宙太郎 上」 を読んだ。向田邦子と久世光彦の同タイトルドラマの文庫化。 とある葬儀屋に住み込みで働くことになったせい子と宙太郎の夫婦。 住み込み先である玉木家の夫婦と子供たちとのどたばた劇。 人間はどうしようもない。 でも…

やっぱりいい人〜さだまさしのこと〜

さだまさし 著 「アントキノイノチ」を読んだ。 映画の宣伝などでタイトルはみんな知っていると思う。 そして、何このタイトルと思ったに違いない。 頭の中にアゴがちらついたことだろう。 私もそうだった。 まさか原作がさだまさしとは。 何を隠そう、私は…

知る義務〜震災の現実〜

石井光太 著 「遺体―震災、津波の果てに」を読んだ。 3・11の大震災。 岩手県の釜石では1100人を超える死者・行方不明者が出る被害にあった。 マチと言われる沿岸に近いエリアは完全に津波に飲みこまれてしまった。 私たちはニュースで死者の数に驚い…

人間利休〜「利休にだずねよ」のこと〜

山本兼一 著 「利休にたずねよ」 を読んだ。 第140回直木賞受賞作。 詫び茶を日本に広め、恐ろしいほどの審美眼をもち、その存在は天下人の秀吉をも恐れさせた利休。 その利休の人間像を様々な人物との交流から追っていく。 切腹の日から遡るかたちで、利休…

死の周り〜「死体の経済学」のこと〜

窪田 順生 著 「死体の経済学」 を読んだ。 世の中にはいろんな商売がある。 中には当たり前のように存在しているが、実状は謎の業界もある。 その最たるものが死に関わる業界だ。 葬儀屋に始まり、遺品整理屋、映画にもなった納棺師など、死に関わるサービ…

残念賞〜「文明の子」のこと〜

太田光 著 「文明の子」 を読んだ。 爆笑問題太田光の二作目の小説。 前回の「マボロシの鳥」がすごく良かったので読んでみた。 正直、今回の作品は残念賞である。 伝えたいことが溢れているのは伝わってくるのだが、 小説としてあまりに不完全というか、稚…

その先に希望はあるか〜「ジェノサイド」のこと〜

高野和明 著 「ジェノサイド」 を読んだ。本屋大賞やこのミスなどで評判になっている作品。 世界の脅威となる存在の出現。 大国に踊らされる者、息子の命を守ろうとする者、難病に苦しむ子供たちのために戦う者、ただ権力を行使しようとする者。 日本、アメ…

下町の匂い〜「かたみ歌」のこと〜

朱川 湊人 著 「かたみ歌」 を読んだ。 昭和40年代前後、下町にあるアカシア商店街を舞台に様々な人間模様を描いた短編集。 少し不思議な、少しホラーなテイストになっている。 直木賞を受賞した「花まんま」も昭和30〜40年代の大阪が舞台だった。 こ…

重み〜石垣りんのこと〜

石垣りん 著 「石垣りん詩集」 を読んだ。戦争を経験し、複雑な家庭環境の中、妹や弟との別れに幾度も合いながらも、 銀行に定年まで勤め上げ家族を支え続け、その傍らで生活に根差した詩を発表し続けた女流詩人。 言葉の質量がすごい。 以前紹介した茨木の…

もうひとつ〜「雪虫」のこと〜

堂場舜一 著 「雪虫」 を読んだ。 刑事・鳴沢了シリーズの第一作目。 古本屋などでよく見かけていたので、どれどれと読んではみたもののイマイチ。 新潟を舞台に、刑事一家で育った鳴沢のちょっとわざとらしいくらいに刑事な活躍を描いている。 事件の組み立…

エロチシズムの向こう側〜澁澤龍彦のこと〜

澁澤龍彦 著 「少女コレクション序説」 を読んだ。 私が敬愛する作家の一人、澁澤龍彦。 幻想、シュルレアリズム、エロチシズム、そういった陰、あるいは淫の美学の大家といっていい。 サド文学を日本に根付かせたのもこの人だ。 この怪しすぎるタイトルこそ…

言葉を友人にもとう〜名言のこと〜

寺山修司 著 「ポケットに名言を」 を読んだ。 寺山修司が古今東西の小説や映画、歌の歌詞、演劇のセリフから選んだ名言が厳選されている。 彼にとって最初の名言は井伏鱒二の 花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生さ だそうだ。 人生のはかなさを鼻歌…

男の理想〜池波作品のこと〜

池波正太郎 著 「剣客商売 2 辻斬り」 を読んだ。 やはり安心の面白さ。 味わい深い人物描写と洗練された文章。 池波作品の読後感の良さは格別だ。 にしても、主人公である秋山小兵衛は60歳の設定。 とにかく強い。そしてモテる。後妻となるおはるは40…

記憶に溶ける〜上林暁文学のこと〜

上林暁 著 「極楽寺門前」 を読んだ。 谷中銀座を抜けて、夕焼けだんだんを登ったところにあるビルの2階。 そこに私の大好きな古本屋がある。 何処行くあても無い休日は決まってそこに行く。 こだわりの品揃えで、文芸書はもちろん、美術関係の書籍が充実し…

世界は変わる〜詩のこころのこと〜

茨木のり子 著 「詩のこころを読む」 を読んだ。 詩人である茨木のり子が感銘を受けた作品を集めたもの。 岩波ジュニア新書ではあるが、完全に大人向けな気がする。 章立てが 1.生まれて 2.恋唄 3.生きるじたばた 4.峠 5.別れ となっている。 いい…

思えばよく知らない〜鎌倉のこと〜

高田崇史 著 「QED ventus〈鎌倉の闇〉」 を読んだ。QEDシリーズを読むのは2冊目。第一作目の「百人一首の呪」はメフィスト賞をとっていて、これがなかなか面白い。 ミステリーではあるのだが、大部分は歴史の謎に迫ることがこのシリーズの特徴になっている…

すべて受け入れろ〜最強の運命論のこと〜

佐々木敦 著 「未知との遭遇: 無限のセカイと有限のワタシ」を読んだ。 批評家・佐々木敦の近著。 音楽、文芸、演劇、マンガやアニメに至る多分野にわたるポップカルチャーを紹介しながら、 現代を生きるための、著者が唱える運命論が展開される。 とにかく…

情熱と哀切〜智恵子のこと〜

津村節子 著 「智恵子飛ぶ」 を読んだ。 日本人なら学生時代にイヤでもふれる詩がある。 高村光太郎の「智恵子抄」である。 智恵子は東京に空が無いといふ、のあれだ。いやなんです、あなたのいってしまふのが、のあれだ。 詩は知っていても、肝心の智恵子本…

白ける展開〜「夏のロケット」のこと〜

川端祐人 著 「夏のロケット」 を読んだ。 第15回サントリーミステリー大賞優秀作品賞を受賞したデビュー作。 高校時代、天文部ロケット班が果たせなかったロケット打ち上げの夢。 大人になって再び集まることになり、火星への夢を実現するべく計画を実行す…

もはや戦い〜谷川俊太郎詩集のこと〜

谷川俊太郎 著 「谷川俊太郎詩選集 3」 を読んだ。 中国人詩人で谷川俊太郎の研究者の田 原氏が選んだアンソロジー。 これが最終巻。巻末にはインタビューが掲載されている。 初期の詩からみると、より個人の経験が反映されているような気がする。 具体的に…

迫りくるフリー〜フリーミアムのこと〜

クリス・アンダーソン 著 「フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略」 珍しくビジネス書を読んだ。 例えばFacebookやgoogleを利用するのに、私たちはお金を払わない。無料だからだ。 それなのに両者は今や世界トップクラスの収益を上げる大企業となっている…

三冬のイメージ〜剣客商売のこと〜

池波正太郎 著 「剣客商売 1」 を読んだ。 鬼平大好き、池波先生リスペクトでおなじみの私。 もはや人生の楽しみのひとつなので、少しずつ読むようにしている。 そしてついに剣客商売を読み始めることになったのである。 鬼平同様に藤田まこと主演のテレビ…

静かな毒〜辛酸なめ子のこと〜

辛酸なめ子 著 「辛酸なめ子の現代社会学」 を読んだ。 最近はまっている辛酸さんの作品。 純愛ブーム、スローライフ、萌え文化などなど、現代の社会現象を独特の文章とマンガで読み解く。 このいい感じにバカにしている感じがとにかく共感できる。 スピリチ…

都会の距離感〜「パークライフ」のこと〜

吉田修一 著 「パークライフ」 を読んだ。 「悪人」などでお馴染みの著者の芥川賞受賞作品。 新しさを求められる芥川賞はいろんな意味で濃いものが多い。 そういった意味において、この作品は薄い。薄いというか淡い。 日比谷公園を舞台に主人公と偶然知り合…

報道の神髄〜筑紫哲也さんのこと〜

筑紫哲也 著 「若き友人たちへ」 を読んだ。 2008年に癌で亡くなった筑紫さんは、晩年大学で講義をもっていた。 ジャーナリズムから世界を見ること、そして自分で考えること。 この本から彼の生き様が見えてくる。 文章は静かだが、内容は熱い。 真っ向から…

リアルな女性〜「ワンちゃん」のこと〜

楊 逸 著 「ワンちゃん」 を読んだ。 中国人作家として初の芥川賞を獲得したヤンイーさんのデビュー作。 日本人の夫と姑と暮らしながら、中国人女性と日本人男性の結婚の斡旋をしている中国人ワンちゃんの、 ユーモラスだが、ひっそりと悲しさが漂う物語。 …

そろそろ〜寺山修司のこと〜

寺山修司 著 「少女詩集」 を読んだ。 私は読書が好きだし、演劇も好きだ、詩も読む。 そうなると避けては通れないのが寺山修司である。 天井桟敷でアングラ演劇を牽引しながら、あらゆるジャンルでその才能を発揮した人物だ。 若い人をぐいぐいと引き込む魅…