責任が必要〜死というテーマのこと〜

重松清 著 「その日の前に」 を読んだ。

流星ワゴンなどでお馴染みの著者の泣ける本として名高い作品。
死をテーマにした物語の短編集。
表題作は余命を宣告された妻との日々を描いたもので、その妻が死ぬ「その日」、
死んだあとの「その日のあとに」と連作になっている。


教科書のような作品というのが私の感想だ。
素敵な人生と暖かな家族という十分なフリのあとの死。前向きで素直な登場人物。他の物語とのつながるリンク感。
涙を誘う仕掛けであふれている。感動の押し売りとしか思えない。


そう、教科書のように退屈。
個人的にコブクロ小説と呼びたい。
「いい歌なんだろうけど、つまらない」のである。


私はひねくれた人間だ。
たとえそれが物語という虚構の世界においても死には責任をもてと思っている。
この作品にはどうにもその責任感が感じられない。


明らかに死をテーマにしているが、死ぬために死んでいるとしか思えない。
ただただ死ぬ話なのである。
この作品が評価されていることに愕然としてしまう。むしろそこに涙が出るほどだ。


死は重要なテーマであることは間違いない。
私の心に残っている死を扱った作品は、
室生犀星の「或る少女の死まで」、三浦綾子の「塩狩峠」、フランクルの「夜と霧」がすぐ思いつく。
小説ではないが、アラーキーの「センチメンタルな旅」は私小説と言っていいような気がする。
マンガだが上野顕太郎の「さよならもいざずに」もイヤでも頭に残る。
映画は間違いなく「ポネット」だろうか。


死を乗り越えるため、あるいは受け入れるため、表現者たちはその大きなテーマに挑んできたしこれからも挑むだろう。
どうか責任をもって対峙してもらいたいものである。

その日のまえに (文春文庫)

その日のまえに (文春文庫)