夜のにおい〜「星を撒いた町」のこと〜

山本善行 選 上林 暁 著 上林暁傑作小説集「星を撒いた町」を読んだ。


読み終えて、バルコニーから外の夜景を見てため息ひとつ。
世界はとてもはかなくて、愛おしいものだと感じた。


この作品を何に例えればよいかと考えたが、暗渠の流れの音がしっくりくる。
悲しくて、静かで、澄んでいて、とても綺麗。


アニメの銀河鉄道の夜を見たことがあるだろうか。あのなぜだか猫のやつ。
子供の頃見たとき、私はあれが怖かった。というより不安になった。
かすんでいるような夜の街のあの感じ。
それに似た夜のにおいをこの作品集から感じた。


著者である上林暁は戦後を代表する文学者だがあまり広くは知られていない。
私も初めて読んだのだが、この作品集は夏葉社という小さな出版社が新しく出したものだ。
ひとりの読者が何度も読み返す本を出すことがモットーらしい。
なるほど、帯にもあるように、年齢を重ねたらまた読み返してみたいと思う。


文章も美しいけど、本自体の装丁も綺麗。
あまり新しい本を買わない私も手に取ってしまうほど。


内容について全くふれていないが、これはもう読んでもらうしかない。
誰もが良いと思うかどうかわからないが、
私はこの夜のにおいを忘れられそうにない。

上林暁傑作小説集『星を撒いた街』

上林暁傑作小説集『星を撒いた街』