静かに優しい視線〜「ある小さなスズメの記録」のこと〜


クレア・キップス 著 「ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯」 を読んだ。


舞台は第二次世界大戦の真っただ中のイギリスはロンドン。
キップス夫人は偶然スズメの雛を拾う。そのスズメは翼と足に障害があったが、彼女は彼を家へと招く。
そして彼女とスズメの生活が始まる。
欧米でベストセラーとなったドキュメントで、最近になり新訳で日本でも出版されるようになった。


このスズメが驚異的な技を披露して、彼女や戦時下で暗い生活を強いられていた人々にいっときの安らぎを与えていた。
ピアノの伴奏で歌ってみたり、ひっくり返る芸やカードを引く芸、とにかくスズメとは思えないことをするのだ。
その驚きを彼女が冷静だが、とても暖かい目線で文章にしている。
感動の押し売りがいっさいなく、とても自然な文章がとても素晴らしい。
本当にこのスズメを愛し、そしてスズメも彼女に絶対的な信頼を感じていたことが伝わってくる。


動物学的にも貴重な記録であり、スズメとこれほど親密に生活した人はいないだろう。なんと12年も共に暮らしたのだ。
後半、スズメは病気になるのだが、そこからがまたいじらしいのだ。
必死で生きようとする姿。生きさせようとする姿。
素晴らしい本だと思う。


結局動物が死んで、勇気と感動をありがとうみたいな日本人好みのものとは全く違う。
とにかく静かだが暖かい彼女の視線。
そして小さなスズメの記録を残したいと思った熱意。
あとからジワジワくる作品だ。


カバー付で可愛い装丁になっているので、
女子にプレゼントしたら、センス良いと思われるだろう。
憎い作品だ。是非、一読を。


ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯

ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯