不条理という現実〜植田正治のこと〜

浜口陽三・植田正治2人展 夢の向こうがわ」 を見た。


醤油でお馴染みのヤマサがギャラリー持っていること自体知らなかった。
その一族である銅版画家の浜口陽三の作品を展示しているらしいのだが、
企画展として植田正治とそれぞれの道で極めた二人というわけで、2人展が行われている。


私の目的は植田正治の写真だ。
私がまだ写真をそれほど見ていない頃、芸術作品としての写真で興味を持ったのが植田正治なのである。
写美の壁面にもプリントされている、砂丘に和装の男女が立っている写真がそれだ。
その不条理感にぐっときたのだ。


今回、「妻のいる砂丘風景」などの砂丘シリーズを間近で見ることができてとても感動した。
私の好きな安部公房の作品に「砂の女」という名作がある。
砂のくぼみ中に住む女と同居するはめになる男の話なのだが、あの不条理感を彷彿とさせてくれる。
あるいは好きな画家であるマグリットのシュルレアリズムにも通ずる感覚的な不条理さも思い出す。


「不条理」というのが私の中の大きなキーワードなのだ。
私自身が不条理というか矛盾を内側に見出しては、いちいち立ち止まる面倒な人間なので、
不条理や矛盾が具現化して表現されたものを見ると、逆に落ち着くのだ。


小説や絵画と違い、植田正治の作品は写真だ。現実なのだ。
氏はその作品を撮るとき、ファインダー越しにその不条理を現実に見たのである。
そしてその時見たものが、私の前にあることに言いしれぬものを感じた。


良いものを見させてもらった。