あのとき何があったのか〜戦争と在日のこと〜

小熊 英二、姜尚中 著 「在日一世の記憶」 を読んだ。


自他ともに忘れがちだが私は韓国人とのハーフである。
アイデンティティこそ希薄ではあるが、在日という存在には関心がある。
在日を考えるには必然的に太平洋戦争の歴史を紐解く必要がある。
戦後65年。日本と韓国、それぞれの国民も体制も関係性も随分と変化した。
それでも戦争の痕は未だに残っており、その傷痕を見なくてはいけない。


この本は約800ページに渡り、52人の在日一世の人生をインタビューしたものを記録したものだ。
なぜ日本に来て、どうやって生きてきたか。
教科書ではわからない、生の声がつまっている。
その人生は基本的に過酷である。
読むのもつらい。だが知る必要がある。
知らなくてはいけない歴史があるからだ。
知らないことが罪、ということがあるのだ。


戦争の何が怖いっていうと、個人というものを一切無視してしまうことにある。
それはショベルカーで砂利を一気にすくいあげ、事務的に山積みにしていくのに似ている。
砂利の一粒一粒のことなど見ていられなくなる。
つまり、あの戦争で辛酸をなめた人々の人生を誰も省みなくなることにある。
生まれたときから平和な私たちはあの戦争を省みることなど希である。
ましてや在日一世の歴史など。


強制連行で、あるいは貧困から、いろんな理由で日本に渡った朝鮮の人たちがいて、
大国の干渉によって南北に分かれ、ある人は帰国運動で帰り、ある人は日本に残った。
それぞれ差別と戦いながら生きてきた。あるいは同族と戦いながら生きてきた。


彼らの人生は私たちに関係ないことだろうか?
そんなことはない、それは間違いなく日本の歴史であり、未来につながる話しなのだ。
私たち日本人は知る必要がある。
責任がどうこうという話ではない。忘れてはいけないことがあり、考えるべきことがあるの。


テレビでもお馴染みの姜尚中さんが関わっているこの本は、とても価値があるものだ。
なにせごっつい本だから全部読めとは言わない。
でも機会があれば少しだけでもページをめくってほしい。
純粋な記憶の記録、そこから見えてくるものは大きいはずだ。


在日一世の記憶  (集英社新書)

在日一世の記憶 (集英社新書)