昭和という時代〜人間臭さのこと〜
高度成長に沸く日本の片隅の市井の人々を描いた向田邦子。
私の大好きな作家の一人だが、彼女の作品からは昭和の香りが色濃く感じ取れる。
作品と向田邦子自身の生い立ちをふまえて昭和を再考している内容だ。
この本自体はたいしたものではない。
ただなるほど、と思ったことがある。
向田邦子は性に対して奥手だったのではないかという推測。
向田作品は不倫の話しが良く出る。本当に良くでる。それなのに性描写は一切無い。
その関係性なども会話やしぐさで伝える。
浮気相手の家で洗濯している姿、こたつでくつろぐ姿、そういう何でもない一場面で、
二人の関係がしっくりと理解できるのだ。
そしてそこが向田邦子の魅力でもある。
心の奥にある弱さや暗さ、そういう人間臭さをちょっとしたことで表現する。
とにかくそのテクニックがすごいのだが、
彼女の作品の魅力はその人間臭さを許し、愛おしむような視線だと思う。
誰かを裏切ったり、傷つけたり、どうしようもないことをしてしまう。
そこからぶつかったり、諦めたり。
これもまた人間臭さだ。
たぶん向田邦子は人が好きだったのだろう。
人と人との関わりの妙が面白かったのだろう。
だからこそああいった作品が書けたのだと思う。
昭和という時代そのものが人間臭かったのかもしれない。
いやもしかしたら、現代の方が人間臭さを感じることが多いかもしれない。
ネットで誰もが自分の出せるのだから。
違うのはそこに品があるかどうか、かもしれない。
- 作者: 川本三郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/04/16
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