大人の時間は過去の時間〜「翳りゆく時間」のこと〜

浅田次郎 選 日本ペンクラブ 編 「翳りゆく時間」を読んだ。


北方謙三阿刀田高山田詠美、、7人の作家の短編集。
浅田次郎が選んでいるということもあって、とりはいきなりの三島由紀夫である。


大人の短編集といった感じの内容になっているのだが、
読み終えてみるとすべての作品には時間への嫉妬のようなものを感じる。
大人になるということは、過去を増やすということで、その過去に憧憬を感じることとも言える。


ここに納められた作品はとても軽く読める。内容もそれほどでもない。
ただ最後の三島由紀夫だけは異質な重みを感じる。他の作品がフリではないかと思うくらいだ。


煙草という短編なのだが、少年が成長する瞬間、アンバランスな感情の均衡がふっと崩れ出す感じ、
そしてそこから始まる予感。そういう微妙な部分を描いている。
繊細な心理を多彩な言葉と表現であぶり出すところなどは、やはりこの人は違うと思わざるを得ない。


ともあれお風呂で読むにはちょうど良い内容といったところか。

翳りゆく時間(とき) (新潮文庫)

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