死と生のせめぎあい〜自殺のこと〜

NHK「"命"みんなで守る」制作班 他 著 「自殺者三万人を救え! "命"みんなで守る社会戦略」 を読んだ。


地震による死亡者、行方不明者は合わせると3万人に近くなってしまった。
一瞬でこれだけの命が失われたことに、未だ実感が湧かない人も多いのではないだろうか。
この3万人という数字で私がすぐに思い出したのが、日本の年間自殺者数だ。


98年以降、毎年3万人が自ら命を絶っている。
私たちの周りで、毎年3万人が姿を消しているという現実をまず知ってもらいたい。
そしてこれは、その現実と向き合っている人々にスポットを当てたNHKの特番を元に生まれた本なのだ。


「ツレがウツになりまして」の夫婦、鬱を乗り越えカウンセラーになった人、視聴者の声、自殺する人に対して組織的に対処しようとうする僧、
自治体で自殺を無くそうとする静岡県富士市、自殺者数全国一位の秋田県で生まれた多重債務者を救う「なまはげの会」、最後に自殺者を激減させたフィンランド
なぜ自殺しようとするのか、自殺しようとする人への意見、いろんな立場による自殺への対応策、最終的に国家戦略としての方法を紹介している。


社会学倫理学的な立場に立脚したものでなく、自殺に対して実践的に取り組んだ内容になっている。
今まで、鬱や死に関する本をいろいろ読んだが、この一冊は内容も読みやすさも充実している。


幸せなことに、私はまだ自分で自分を殺そうと思ったことはないし、周囲にも自殺した者はいない。
だが、自殺というものにはとても感心がある。自ら死を選ぶその気持ちがどうしても想像できないからだ。
しかし、これを読んでなるほどと思ったことがある。


誰も死にたくて死んでいるわけではない。生きたいけど死ぬしかないと思って死んでいるのだ。


当たり前のことのように思うが、死にたくて死ぬわけではないということを、しっかり認識する必要があるのだ。
死ぬ勇気があれば何でもできると言う人があるが、違うのだ。
死ぬのに勇気も何もない、追い込まれて死んでいるということなのだ。


地震によってすべてを失い、絶望から死へ追い込まれていく人は必ず出てくる。
失業、二重債務、孤独、要因はいくらでも出てくる。
被災地だけではない、間接的に追い込まれる人は増加するはずだ。日本全体が被災していると考えた方がいい。


たぶん、私たちは今、死というものに真正面から対峙する必要があるのではないだろうか。
死を考えるというのは、生を考えることだ。
死と生の間でせめぎ合っている人のことを少しだけでも考えてみてはどうだろう。


CMなどで、一人じゃないだの、自分にできることだの言っているが、
もっと近くの人をまず救う意識が必要じゃないかと思うのだ。
その連鎖がいずれ被災地まで届くのだと思う。


地震の前から困っている人は大勢いる。
もちろん被災者に手を差し伸べることは最重要課題であることは間違いない。
だが、我々ができることを本当に考えるなら、節電や募金だけで満足するのは違うといいたいわけである。


やはり長くなってしまったが、是非読んでほしい一冊だ。
眠れないといっている人に声をかける、それが自殺を減らす第一歩になる、そういう実践的なノウハウはきっと役に立つだろう。


自殺者三万人を救え!  “命

自殺者三万人を救え! “命"みんなで守る社会戦略