バーチャルリアリティの極み〜小津映画のこと〜

映画「秋日和」を観た。

まさか、小津安二郎の作品を映画館で観られるとは。

場所は北千住の芸術センター2階にあるシネマブルースタジオ。
なぜ小津なのか、しかもなぜこの作品なのか、それは謎である。
千円で観られるのだが、想像通り客は私たちを入れて10人もいない。。


さて、この作品でも小津特有の味わいが随所に見られる。
代名詞とも言えるローアングルと定点カメラ。映画館で観るとテレビとは違った効果があるようだ。
隣の部屋で起きていることのようで、世界にすっと入っていける。
その世界は決して特別なものではない。普通の人たちが織りなす日常である。
日常のドラマ。それは当たり前で小さいもの。それをすくい取るのが小津映画なわけである。


定番の笠智衆演ずる父と原節子演じる娘の物語ではなく、この作品では原節子が母親役だ。
あの独特の固まったようなスマイルはちょっと怖いが、あれも小津映画の一部である。
娘の結婚を巡る小さな、本当に小さな事件の物語だ。


今のドラマはとにかく忙しい。
個性的な登場人物や音楽、激しいストーリー展開。
小津映画は違う。
随所に入る風景カット、本筋とは関係ないセリフのくり返し。
そんな一見無駄のように思える演出が、
普通の登場人物たちの生きてきた歴史や関係をさりげなく私たちに教えてくれる。
やがて映画の中のひとたちが愛おしく思えてくるのである。


愛おしい登場人物を近くに感じながら、ゆっくりと時間を共有する。
終わったときには何だか自分の歴史のような気さえする。
もしかしたら、バーチャルリアリティの神髄はここにあるのかも。


雨の日曜日に観る小津映画、なかなか乙なものだった。