過去の表現〜MOT常設展のこと〜

「Plastic Memories いまを照らす方法 」を見た。
東京都現代美術館の常設企画。
時間や記憶といった感覚的にしか捉えられない概念に挑んだ作品が展示されていた。
瞬間や永遠を表現するのは芸術のひとつの大きな主題ともいえる。


ある時代のある地域のある人の歴史の一部。
そんな曖昧でありながら限定的なものに、自分を重ね合わせ、思わぬ感慨の引き込まれるものだ。
今回の観た中ではアビチャッポン・ウィーラセタクンの「エメラルド」という映像作品が秀逸だった。


廃業したバンコクのホテルの中の映像に、小さくて白い羽のようなものがフワフワと浮かんでいる。
そしていろんな話しをしている声が聞こえる。
それは家族や恋人たちの小さな思い出の断片のようなものなのだ。
その声の中で映像を見ていると、過ぎてしまった時間の記憶が羽のように浮いているように思えてきて、
強烈な郷愁を誘うのだ。


コンテンポラリーアートが過去を表現するというのも妙な気もするが、
多角的な表現を組み合わせないと、それを表現するのは難しいことのように思える。
しかしその繊細なものを、ギリギリのところで作品にしているのは本当に面白い。


インスタレーション作品が多いので、作品数自体はそんなに多くないが、
ゆっくりとそれぞれの作品にもつ記憶に触れていくのも良いと思う。